この記事では、FP3級試験で出題される労働保険(労災保険と雇用保険)について解説しています。
- 労災保険はすべての労働者(パート、アルバイトを含む)が対象(労働時間の条件なし)
- 労災保険の保険料は全額事業主負担
- 雇用保険の基本手当は、自己都合退職の場合、7日間の待期期間の満了後、原則2か月(最長3か月)の給付制限がある
- 雇用保険の基本手当は、離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あったときに給付を受けることができる
- 雇用保険には、基本手当のほか、就業促進手当、教育訓練給付金、高年齢雇用継続基本給付金、介護休業給付金、育児休業給付金などの保険給付がある

労災保険の概要、雇用保険の基本手当の受給要件はしっかり押さえておこう!
用語
- 労働保険(ろうどうほけん) … 労災保険と雇用保険の総称。
- 労災保険(ろうさいほけん) … 仕事中や通勤中の事故による労働者の病気やケガ、障害、死亡などに対して給付が行われる保険制度。正式には労働者災害補償保険。
- 雇用保険(こようほけん) … 労働者の生活と雇用の安定や就職の促進のために、失業した人や教育訓練を受ける人などに対して給付を行う保険制度。
- 基本手当(きほんてあて) … 一般被保険者が失業中である場合に、離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あったときに給付を受けることができる雇用保険上の手当。
- 就業促進手当(しゅうぎょうそくしんてあて) … 基本手当の支給残日数を一定程度以上残して早期に安定した職業に再就職した人のうち、一定の要件を満たした人に対して給付される雇用保険上の手当。
- 教育訓練給付金(きょういくくんれんきゅうふきん) … 労働者が厚生労働大臣が指定した講座を修了した場合に、受講費用の一部が給付される制度で、具体的には一般教育訓練給付金、特定一般教育訓練給付金、専門実践教育訓練給付金の3種類がある。
- 高年齢雇用継続給付(こうねんれいこようけいぞくきゅうふ) … 60歳から65歳までの賃金の低下を補うための給付制度。高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類の給付金がある。
- 介護休業給付(かいごきゅうぎょうきゅうふ) … 家族を介護するために会社を休んだ人を支援するための給付制度。
- 育児休業給付(いくじきゅうぎょうきゅうふ) … 。育児のために会社を休んだ人を支援するための給付制度。
1. 労働保険とは?
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。
保険給付はそれぞれで行われますが、保険料の納付などは一体のものとして取り扱われます。


2. 労災保険
2-1. 労災保険とは?
労災保険とは、仕事中や通勤中の事故による労働者の病気やケガ、障害、死亡などに対して給付が行われる保険制度です。正式には労働者災害補償保険といいます(試験では正式名称の方で出題されます)。
保険者(保険の運用主体)は、国(政府)です。
2-2. 労災保険の被保険者
労災保険の被保険者(保険の加入者)は、正社員だけでなく、パート、アルバイトなど、その名称及び雇用形態にかかわらず、労働の対価として賃金を受けるすべての労働者が対象となります。
一方、会社の経営者や役員、自営業者(個人事業主)およびその家族は、法律上の労働者には該当しないため、原則として労災保険への加入ができません。
ただし、一定の条件を満たす中小事業主や特定作業従事者などに対しては、特別に任意加入を認める制度(特別加入制度)があります。
2-3. 労災保険の保険料
労災保険の保険料は、全額事業主(会社)が負担します。
健康保険や厚生年金などほかの社会保険は労使折半(会社と労働者が半分ずつ負担)が原則ですが、業務上の病気やケガについては会社にその補償責任があるため、保険料も全額が会社負担になっています。
また、労働者が1人でもいれば、会社は労災保険に加入しなければなりません(強制加入)。
2-4. 労災保険の受給要件
業務災害、複数業務要因災害、通勤災害のいずれかに該当する場合に労災保険の給付を受けることができます。
業務災害とは、業務が原因として被った病気やケガ、障害、死亡等をいいます。この業務上の病気やケガなどが、同時に勤める複数の会社の業務に起因している場合は複数業務要因災害になります。
また、通勤災害は、通勤により被った病気やケガ、障害、死亡等をいいます。ただし、通勤途中であっても、寄り道場所で被った災害は原則として通勤災害とは認められません。
なお、業務以外の要因で被った病気やケガなどは健康保険の対象となります。


2-5. 労災保険の主な給付内容
病気やケガの治療を受ける場合、療養補償給付(療養給付)として治療費が給付されます。
また、被保険者が業務上の病気やケガで休業して賃金がもらえない場合は、休業補償給付(休業給付)として、休業4日目から1日につき給付基礎日額の6割が給付されます。
ここでいう給付基礎日額とは、原因となった事故直前3か月分の賃金を歴日数(カレンダー上の日数)で割ったものをいいます。
なお、健康保険の傷病手当金では連続して3日以上休むことが要件になっていましたが、労災保険の場合にはそのような要件はなく、4日目から支給されます。
3. 雇用保険
3-1. 雇用保険とは?
雇用保険とは、労働者の生活と雇用の安定や就職の促進のために、失業した人や教育訓練を受ける人などに対して給付を行う保険制度です。
労災保険と同様、保険者(保険の運用主体)は、国(政府)です。
3-2. 雇用保険の被保険者
雇用保険の被保険者(保険の加入者)は、一定の条件を満たすすべての労働者(パートやアルバイトを含む)が対象です。
ただし、会社の経営者や役員、自営業者(個人事業主)およびその家族は加入できません。
なお、一定の条件とは、1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用見込みがあることです。
3-3. 雇用保険の保険料
雇用保険の保険料は、事業主(会社)と被保険者(労働者)の両方で負担します。
雇用保険の場合は労使折半(半分ずつ負担)ではなく、事業主が多めに負担します。負担割合や保険料率は業種により異なりますが、事業主がおおむね6割程度を負担することになります。
3-4. 雇用保険の主な給付内容
雇用保険の給付には、主に求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付、育児休業給付などがあります。


① 基本手当(求職者給付)
求職者給付とは、求職活動中の失業者の生活を安定させるための給付制度です。給付金(手当)の種類は多岐にわたりますが、FP3級では一般被保険者向けの基本手当についてよく問われます。
基本手当は、一般被保険者が失業中(働く意欲と能力があるが職業に就くことができない状態)である場合に、離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あったときに給付を受けることができる手当です。一般的に失業手当といわれるものです。
なお、倒産や解雇など、会社都合による離職の場合は、少し要件が緩和され、離職前の1年間に被保険者期間が通算6か月以上あれば給付の対象となります。
基本手当を受けるには、ハローワーク(公共職業安定所)に事業主から受け取った離職票を提出する必要がありますが、申し込みの日から7日間は待期期間(給付されない期間)となります。
さらに、自己都合の離職の場合は、待期期間後、原則2か月間(5年のうち3回目以降は3か月)の給付制限があり、この期間は給付がされません。


基本手当の給付日数は、失業の理由や年齢、被保険者期間によって異なりますが、自己都合退職または定年退職の場合は90日から最大150日、倒産や解雇等の会社都合の場合は90日から最大330日となります。
基本手当の金額は、離職前6か月間の賃金日額の45%~80%が支給されます。


② 就業促進手当(就業促進給付)
就職促進給付とは、失業者の再就職を援助、促進することを主な目的とする給付制度です。給付金(手当)の種類としては、就業促進手当があります。
就業促進手当は、基本手当の支給残日数を一定程度以上残して早期に安定した職業に再就職した人のうち、一定の要件を満たした人に対して給付される手当の総称です。より具体的には、再就職手当、就業促進定着手当、就業手当などの種類があり、それぞれで要件が定められています。
③ 教育訓練給付金(教育訓練給付)
教育訓練給付とは、働く人の主体的な能力開発の取組みの支援を主な目的とする給付制度です。教育訓練給付には、教育訓練給付金と教育訓練支援給付金の2種類の給付金があります(試験対策上は前者が重要です)。
教育訓練給付金は、労働者が厚生労働大臣が指定した講座を修了した場合に、受講費用の一部が給付される制度で、具体的には一般教育訓練給付金、特定一般教育訓練給付金、専門実践教育訓練給付金の3種類があります。
例えば、一般教育訓練給付金では、支払った受講費用の20%相当額が給付されます。ただし、給付額の上限は10万円と決まっているため、20%相当額が10万円を超える場合、給付額は10万円になります。


④ 高年齢雇用継続給付(雇用継続給付)
雇用継続給付とは、働く人の職業生活の円滑な継続を援助、促進することを主な目的とする給付制度です。雇用継続給付には、高年齢雇用継続給付と介護休業給付の2種類の給付制度が含まれます。
高年齢雇用継続給付は、60歳から65歳までの賃金の低下を補うための給付制度です。具体的には、60歳以降も継続して働く場合に、60歳時点の賃金と比較して、収入が75%未満となっている人に給付が行われます。
高年齢雇用継続給付には、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類の給付金があります。


⑤ 介護休業給付(雇用継続給付)
介護休業給付とは、家族を介護するために会社を休んだ人を支援するための給付制度です。給付金の種類としては、介護休業給付金があります。
介護休業給付金では、労働者が家族の介護のために会社を休んだ(介護休業を取得した)場合で、一定の要件を満たすときは、通算93日を限度として最大3回まで分割して休業前賃金日額の67%相当額が給付されます。
なお、ここでいう一定の要件には、介護休業開始前2年間に被保険者期間が12か月以上あることなどが含まれます。


⑥ 育児休業給付金(育児休業給付)
育児休業給付とは、育児のために会社を休んだ人を支援するための給付制度です。給付金には育児休業給付金(いわゆる育休手当)や出生時育児休業給付金(産後パパ育休)などの種類があります。
育児休業給付金では、原則満1歳未満の子(一定の場合は1歳6か月未満または2歳未満も対象)を養育するために育児休業を取得した場合で、一定の要件を満たすときは、休業開始から180日まで休業開始時賃金日額の67%相当額が給付されます(180日経過後からは50%相当額)。
なお、ここでいう一定の要件には、育児休業開始前2年間に被保険者期間が12か月以上あることなどが含まれます。


過去問にトライ!
【問題1】労災保険の保険料
次の文章を読んで、正しいものまたは適切なものには○を、誤っているものまたは不適切なものには×をつけなさい。
労働者災害補償保険の保険料は、労働者と事業主の折半で負担する。
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2024年1月 第1問(2))
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【解答】
【解説】
労働者災害補償保険(労災)の保険料は、全額事業主が負担します。これは業務上の病気やケガについては会社にその補償責任があるという考え方に基づいています。
したがって、正解は×です。
【問題2】労災保険の被保険者
次の文章を読んで、正しいものまたは適切なものには○を、誤っているものまたは不適切なものには×をつけなさい。
アルバイトやパートタイマーが、労働者災害補償保険の適用を受けるためには、1週間の所定労働時間が20時間を超えていなければならない。
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2023年9月 第1問(2))
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【解答】
【解説】
労働者災害補償保険(労災保険)は、正社員だけでなく、パート、アルバイトなど、その名称及び雇用形態にかかわらず、労働の対価として賃金を受けるすべての労働者が対象となります。労働時間の要件はありません。
したがって、正解は×です。
なお、1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者が被保険者の範囲から除外されるのは、労災保険ではなく雇用保険です。
労災保険は、労働者が業務上に被ってしまった病気やケガについて補償するための保険制度なので、雇用保険よりも対象者が広くなっている(例外が少ない)と理解しておきましょう。
【問題3】雇用保険の基本手当①
次の文章を読んで、正しいものまたは適切なものには○を、誤っているものまたは不適切なものには×をつけなさい。
正当な理由がなく自己の都合により退職した者に対する雇用保険の基本手当は、待期期間の満了後4カ月間は支給されない。
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2024年5月 第1問(2))
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【解答】
【解説】
自己の都合により退職した者に対する雇用保険の基本手当は、7日間の待期期間の満了後、原則として2か月の給付制限があります(5年間のうち3回目以降は3か月)。4か月というのは誤りです。
したがって、正解は×です。
【問題4】雇用保険の基本手当②
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
雇用保険の基本手当を受給するためには、倒産、解雇、雇止めなどの場合を除き、原則として、離職の日以前( ① )に被保険者期間が通算して( ② )以上あることなどの要件を満たす必要がある。
1) ① 1年間 ② 6カ月
2) ① 2年間 ② 6カ月
3) ① 2年間 ② 12カ月
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2023年9月 第2問(33))
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【解答】
3
【解説】
雇用保険の基本手当は、離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あったときに給付を受けることができます。
したがって、正解は 2 です。
なお、倒産や解雇など、会社都合による離職の場合は、少し要件が緩和され、離職前の1年間に被保険者期間が通算6か月以上あれば給付の対象となります。
【問題5】雇用保険の基本手当③
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
20年以上勤務した会社を60歳到達月の末日で定年退職し、雇用保険の基本手当の受給資格者となった者が受給することができる基本手当の日数は最大( )である。
1) 100日
2) 150日
3) 200日
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2022年1月 第2問(33))
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【解答】
2
【解説】
基本手当の給付日数は、失業の理由や年齢、被保険者期間によって異なりますが、自己都合退職または定年退職の場合は90日から最大150日、倒産や解雇等の会社都合の場合は90日から最大330日となります。
今回は定年退職のケースなので、最大日数は150日です。
したがって、正解は 2 です。
【問題6】雇用保険の教育訓練給付金
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
雇用保険の教育訓練給付金のうち、一般教育訓練に係る教育訓練給付金の額は、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の( ① )相当額であるが、その額が( ② )を超える場合の支給額は、( ② )となる。
1) ① 10% ② 10万円
2) ① 20% ② 10万円
3) ① 20% ② 20万円
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2022年5月 第2問(33))
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【解答】
2
【解説】
一般教育訓練給付金では、支払った受講費用の20%相当額が給付されます。ただし、給付額の上限は10万円と決まっているため、20%相当額が10万円を超える場合、給付額は10万円になります。
したがって、正解は 2 です。
【問題7】雇用保険の高年齢雇用継続基本給付金
次の文章を読んで、正しいものまたは適切なものには○を、誤っているものまたは不適切なものには×をつけなさい。
雇用保険の高年齢雇用継続基本給付金は、原則として、算定基礎期間を満たす60歳以上65歳未満の被保険者が、60歳到達時点に比べて賃金が85%未満に低下した状態で終了している場合に、被保険者に対して支給される。
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2018年1月 第1問(2))
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【解答】
【解説】
高年齢雇用継続給付では、60歳以降も継続して働く場合に、60歳時点の賃金と比較して、収入が75%未満となっている人に給付が行われます。
したがって、正解は×です。
【問題8】雇用保険の育児休業給付金
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
雇用保険の育児休業給付金の額は、育児休業を開始した日から育児休業給付金の支給に係る休業日数が通算して180日に達するまでの間は、1支給単位期間当たり、原則として休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の( )相当額となる。
1) 33%
2) 67%
3) 75%
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2018年9月 第2問(32))
解答・解説を見る
【解答】
2
【解説】
育児休業給付金では、原則満1歳未満の子(一定の場合は1歳6か月未満または2歳未満も対象)を養育するために育児休業を取得した場合で、一定の要件を満たすときは、休業開始から180日まで休業開始時賃金日額の67%相当額が給付されます(180日経過後からは50%相当額)。
したがって、正解は 2 です。
以上で第8回のFP3級講座はおわりです。お疲れさまでした!