この記事では、FP3級試験で出題される社会保険制度の概要と公的医療保険(健康保険、国民健康保険など)について解説しています。
- 社会保険には、医療保険、介護保険、年金保険、労災保険、雇用保険の5つの分野がある
- 日本の公的医療保険には、会社員とその家族が加入する健康保険、自営業者などが加入する国民健康保険、75歳以上の人が対象となる後期高齢者医療制度などの制度がある
- 健康保険の主な保険給付には、療養の給付、高額療養費、傷病手当金、出産育児一時金、出産手当金、埋葬料がある

頻出論点!保険給付の支給期間や金額などを覚えて、確実に点数をゲットしよう!
用語
- 健康保険(けんこうほけん) … 会社員とその家族の業務外の病気やケガ、出産、死亡について給付を行う医療保険制度。
- 国民健康保険(こくみんけんこうほけん) … 健康保険などその他の保険に加入していない、自営業者や未就業者(年金受給者など)を対象とした医療保険制度。
- 後期高齢者医療制度(こうきこうれいしゃいりょうせいど) … 75歳以上(一定の障害がある方は65歳以上)のすべての人が対象となる医療保険制度。
- 保険者(ほけんじゃ) … 保険制度の運用主体のこと。
- 被保険者(ひほけんしゃ) … 保険に加入する本人のこと。
- 被扶養者(ひふようしゃ) … 年収要件などの一定の要件を満たした被保険者の扶養家族のこと。
- 任意継続被保険者(にんいけいぞくひほけんしゃ) … 退職後の最長2年間、退職前の健康保険に継続して加入することができる制度の被保険者。
- 療養の給付(りょうようのきゅうふ) … 被保険者(本人)が業務外の病気やケガをしたときに、医療行為を受けた病院などで保険証を提示することで、医療費の一部だけを自己負担し、残りは健康保険から支払われる制度。
- 高額療養費(こうがくりょうようひ) … 1か月間に支払う医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過額が支給される制度。
- 傷病手当金(しょうびょうてあてきん) … 被保険者(本人)が病気やケガを理由に会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される手当金。
- 出産育児一時金(しゅっさんいくじいちじきん) … 被保険者(本人)が出産したときに支給される一時金。
- 出産手当金(しゅっさんてあてきん) … 被保険者(本人)が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けられない場合に支給される手当金。
- 埋葬料(まいそうりょう) … 被保険者(本人)が死亡したときに、葬儀を行った家族に支給される一時金。
1. 社会保険とは?
社会保険とは、国民に加入が義務付けられている、国(政府や公的機関)が管理監督者となって行う公的な保険制度をいいます。
病気やケガ、死亡、老齢、失業など、生活が困難になってしまった場合に国が必要な保障を行うことにより、国民の生活の安定を図ることを目的としています。
日本の社会保険制度は、医療保険、介護保険、年金保険、労災保険、雇用保険の5つの分野があります。
これら5つを指して社会保険と呼ぶこともありますが、医療保険、介護保険、年金保険の3つを指して社会保険という場合もあります。
また、労災保険、雇用保険の2つを合わせて労働保険といいます。


2. 公的医療保険とは?
公的医療保険とは、国が運営する病気やケガに備えるための保険制度です。日本では、国民全員が公的医療保険に加入する国民皆保険制度を採用しています。
日本の公的医療保険の制度には、主に健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度があります。また、試験対策上重要でないため触れませんが、公務員とその家族が加入する共済組合などの制度もあります。
なお、保険制度の運用主体のことを保険者といい、保険に加入する本人を被保険者といいます。また、年収要件などの一定の要件を満たした被保険者の扶養家族を被扶養者といいます。


3. 健康保険(けんぽ)
3-1. 健康保険とは?
健康保険は、会社員とその家族の業務外の病気やケガ、出産、死亡について給付を行う医療保険制度です。
“業務上”の病気やケガなどは労災保険の給付対象となっているため、健康保険では対象外になります。
健康保険には、協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)と組合健保(組合管掌健康保険)の2種類があります。
協会けんぽは、全国健康保険協会が保険者となる健康保険で、主に中小企業の会社員が加入します。
組合健保は、健康保険組合が保険者となる健康保険で、主に大企業の会社員が加入します。
3-2. 健康保険の保険料
健康保険の保険料は、被保険者(会社員)の標準報酬月額(給料)と標準賞与額(ボーナス)に保険料率を掛けて計算されます。
保険料の支払いは、原則として会社(事業主)と被保険者で半分ずつ負担します。これを労使折半(ろうしせっぱん)といいます。
また、保険料は給料から天引き(源泉徴収)され、被保険者負担分と会社負担分を合わせて会社が支払います。
3-3. 健康保険の主な給付内容
健康保険では、病気やケガ、出産、死亡について保険給付が行われます。それぞれの具体的な給付内容について見ていきましょう。


① 療養の給付、家族療養費
被保険者(本人)が業務外の病気やケガをしたときに、医療行為を受けた病院などで保険証を提示すれば、医療費の一部だけを自己負担し、残りは健康保険から支払われます。これを療養の給付といいます。
例えば、70歳未満の方であれば、医療費の3割負担だけで医療行為を受けることができます。
また、被扶養者(家族)が病気やケガをしたときも、被保険者と同様に医療費の一部の自己負担だけで医療行為を受けることができます。これを家族療養費といいます。


② 高額療養費
高額療養費とは、1か月間に支払う医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過額が支給される制度です。


自己負担額は年齢や所得などによって異なります。70歳未満の人の自己負担限度額は次のように計算します。
標準報酬月額※ (カッコ内は標準月額) | 自己負担限度額 |
---|---|
83万円以上 (81万円以上) | 252,600円 +(総医療費-842,000円)× 1% |
53万円~79万円 (51万5千円以上〜81万円未満) | 167,400円 +(総医療費-558,000円)× 1% |
28万円~50万円 (27万円以上〜51万5千円未満) | 80,100円 +(総医療費-267,000円)× 1% |
26万円以下 (27万円未満) | 57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
※標準報酬月額とは、社会保険料や給付額を簡単に計算するために、被保険者の報酬の月額を一定の範囲ごとにを区分したもの。
例えば、標準報酬月額が30万円の人が、入院・手術等をして、病院の窓口で支払った金額が1か月で50万円(自己負担割合3割)だったケースを想定してみます。
この場合、総医療費は、500,000円 ÷ 30% = 1,500,000円です。
したがって、自己負担限度額は、80,100円 +(1,500,000円 - 267,000円)× 1% = 92,430円になります。
このように、多額の医療費がかかったとしても、実際の負担額には上限があるので、あとから払い戻しを受けることができます。
③ 傷病手当金
傷病手当金とは、被保険者(本人)が病気やケガを理由に会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される手当金です。
具体的には、病気やケガを理由に3日間以上連続して会社を休み、4日目以降の給料が支払われない場合に、標準報酬日額相当額の3分の2の金額が、通算で1年6か月間を限度に支給されます。
なお、標準報酬日額相当額とは、支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30日で割った金額をいいます。


④ 出産育児一時金、家族出産育児一時金
出産育児一時金とは、被保険者(本人)が出産したときに支給される一時金で、子ども1人につき50万円が支給されます。
また、家族出産育児一時金として、被扶養者(家族)が出産した場合も同様に、子ども1人につき50万円が支給されます。


⑤ 出産手当金
出産手当金とは、被保険者(本人)が出産のために会社を休み、その間に給与の支払いを受けられない場合に支給される手当金です。
具体的には、出産日以前42日(6週間)から出産の翌日以後56日目(8週間)までの範囲内で、実際に会社を休んだ期間を対象として、標準報酬日額相当額の3分の2の金額が支給されます。


⑥ 埋葬料、家族埋葬料
埋葬料とは、被保険者(本人)が死亡したときに、葬儀を行った家族に支給される一時金で、一律5万円が支給されます。
また、家族埋葬料として、被扶養者(家族)が死亡したときにも、被保険者に5万円が支給されます。


3-4. 任意継続被保険者
健康保険は被保険者(会社員)が会社を退職した場合、健康保険から外れることになります。
しかし、一定の要件を満たす被保険者であれば、退職後も最長2年間、退職前の健康保険に継続して加入することができます。これを任意継続被保険者といいます。
一定の要件とは、①健康保険に継続して2か月以上加入しており、②退職日の翌日から20日以内に申請することの2つです。
ただし、この場合の保険料は被保険者が全額自己負担することになります(通常は労使折半なので半分だけ負担)。
4. 国民健康保険(こくほ)
4-1. 国民健康保険とは?
国民健康保険とは、健康保険などその他の保険に加入していない、自営業者や未就業者(年金受給者など)を対象とした医療保険制度です。
国民健康保険の保険者(運用主体)は、都道府県と市区町村が共同で保険者となるものと、国民健康保険組合が保険者となるものがあります。
なお、国民健康保険には、被扶養者という概念がないので、自営業者に扶養されている家族も被保険者として国民健康保険に加入し、保険料を負担する必要があります(健康保険の場合は被扶養者の保険料負担なし)。
4-2. 国民健康保険の保険料
国民健康保険の保険料は、市区町村によって異なり、被保険者の前年の所得等によって計算されます。
4-3. 国民健康保険の主な給付内容
国民健康保険の給付内容は、基本的に会社員が加入する健康保険とほぼ同じですが、自営業者や未就業者が加入する国民健康保険には会社から支給される給与という概念がないので、病気やケガなどによる休業中の補償である傷病手当金や出産手当金はありません。
5. 後期高齢者医療制度
5-1. 後期高齢者医療制度とは?
後期高齢者医療制度とは、75歳以上(一定の障害がある方は65歳以上)のすべての人が対象となる医療保険制度です。
後期高齢者医療制度での窓口での自己負担割合は原則1割ですが、現役並み所得者は3割、現役並み所得者以外の一定以上の所得者は2割となります。
5-2. 後期高齢者医療制度の保険料
後期高齢者医療制度は各都道府県で運営しているため、保険料は都道府県によって異なります。
保険料は市区町村が徴収を行い、原則として年金からの天引きで徴収されます。
過去問にトライ!
【問題1】高額療養費
次の文章を読んで、正しいものまたは適切なものには○を、誤っているものまたは不適切なものには×をつけなさい。
健康保険の被保険者が同一月内に同一の医療機関等で支払った医療費の一部負担金等の額が、その者に係る自己負担限度額を超えた場合、その支払った一部負担金等の全額が、高額療養費として支給される。
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2021年1月 第1問(1))
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【解答】
【解説】
高額療養費とは、1か月間に支払う医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過額が支給される制度です。
一部負担金のうち、自己負担限度額を超えた部分が支給されるため、「支払った一部負担金等の全額」が支給されるというのは誤りです。
したがって、正解は×です。
【問題2】傷病手当金①
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
全国健康保険協会管掌健康保険の傷病手当金の支給期間は、同一の傷病に関して、その支給開始日から通算して最長で( )である。
1) 1年
2) 1年6か月
3) 2年
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2024年5月 第2問(32))
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【解答】
2
【解説】
傷病手当金は、病気やケガを理由に3日間以上連続して会社を休み、4日目以降の給料が支払われない場合に、標準報酬日額相当額の3分の2の金額が、通算で1年6か月間を限度に支給されます。
したがって、正解は 2 です。
【問題3】傷病手当金②
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者に支給される傷病手当金の額は、原則として、1日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した( ① )の各月の標準報酬月額の平均額を30 で除した額に、( ② )を乗じた額である。
1) ① 6か月間 ② 3分の2
2) ① 12か月間 ② 3分の2
3) ① 12か月間 ② 4分の3
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2023年9月 第2問(32))
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【解答】
2
【解説】
傷病手当金の額は、原則として、1日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12か月の各月の標準報酬月額の平均額を30日で割った金額に3分の2を乗じた額です。
したがって、正解は 2 です。
【問題4】傷病手当金③
次の文章を読んで、正しいものまたは適切なものには○を、誤っているものまたは不適切なものには×をつけなさい。
全国健康保険協会管掌 健康保険の被保険者が、業務外の事由による負傷または疾病の療養のため、労務に服することができずに休業し、報酬を受けられなかった 場合は、その労務に服することができなくなった日から傷病手当金が支給される。
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2023年1月 第1問(2))
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【解答】
【解説】
傷病手当金は、病気やケガを理由に3日間以上連続して会社を休み、4日目以降の給料が支払われない場合に、標準報酬日額相当額の3分の2の金額が、通算で1年6か月間を限度に支給されます。
傷病手当金の支給が開始されるのは、会社を休んでから連続した3日間のあと(待機が完成したあと)なので、「労務に服することができなくなった日から傷病手当金が支給される」というのは誤りです。
したがって、正解は×です。
【問題5】出産育児一時金
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者が、産科医療補償制度に加入する医療機関で出産した場合の出産育児一時金の額は、1児につき( )である。
1) 42万円
2) 50万円
3) 56万円
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2022年1月 第2問(32))
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【解答】
2
【解説】
出産育児一時金は、被保険者(本人)が出産したときに支給される一時金で、子ども1人につき50万円が支給されます。
したがって、正解は 2 です。
【問題6】任意継続被保険者①
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
退職により健康保険の被保険者資格を喪失した者で、喪失日の前日までに継続して( ① )以上被保険者であった者は、所定の申出により、最長で( ② )、健康保険の任意継続被保険者となることができる。
1) ① 1か月 ② 2年間
2) ① 2か月 ② 1年間
3) ① 2か月 ② 2年間
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2024年1月 第2問(32))
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【解答】
3
【解説】
健康保険に継続して2か月以上加入し、退職日の翌日から20日以内に申請した場合、退職後も最長2年間、退職前の健康保険に継続して加入することができます。
したがって、正解は 3 です。
【問題7】任意継続被保険者①
次の文章の( )内にあてはまる最も適切な文章、語句、数字またはそれらの組合せを1) ~3)のなかから選びなさい。
健康保険の任意継続被保険者となるための申出は、被保険者の資格を喪失した日から原則として( )以内にしなければならない。
1) 10日
2) 14日
3) 20日
(日本FP協会 3級FP技能検定 学科試験 2018年5月 第2問(32))
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【解答】
3
【解説】
健康保険に継続して2か月以上加入し、退職日の翌日から20日以内に申請した場合、退職後も最長2年間、退職前の健康保険に継続して加入することができます。
したがって、正解は 3 です。
以上で第6回のFP3級講座はおわりです。お疲れさまでした!